肥満遺伝子からみたダイエット、その2
空腹・満腹感覚を基準に食事をすることの大切さ
食欲を調節する中枢は脳の視床下部にあり、摂食中枢と満腹中枢はそれぞれ食欲のアクセル役とブレーキ役をはたしています。お腹がすいた状態では血糖値が下がり、逆に遊離脂肪酸は上がります。また空っぽの胃からはグレリンという空腹ホルモンが出て、血糖低下(脂肪酸増加)とあわせて摂食中枢を刺激することで、食欲が引き起こされます。一方、食事をすると血糖値が上昇(遊離脂肪酸は低下)、膵臓からはインスリン、消化管からはGLP-1などの満腹ホルモンが出て、満腹中枢を刺激して食欲にブレーキをかけます。長期的には、脂肪組織から分泌される満腹ホルモンのレプチンが食欲を抑制します。
前回、食行動調節系(FTO)遺伝子はダイエットの大敵で、この遺伝子を持つ人は、満腹感を感じにくく過食しやすい特徴があるとお話をしましたが、これは満腹中枢でのホルモンの受け取り機能が弱く食欲にブレーキがかかりにくくなっているためです。しかし上述したように、私たちの食行動は、血糖値や脂肪酸ほか、膵臓や胃腸、脂肪組織から分泌される各種ホルモンが化学伝達物質として身体の各部分と脳の間で作用することで、実に複雑かつ巧妙に調節されています。
その理由は、人間にとって食べることは本来、生存にかかわる行為だからです。食べるものがない状態で空腹感を覚えず食べる欲求もなかったとしたら、人は餓死してしまうことでしょう。逆にお腹がいっぱいなのに満腹感がなく食べ続けていたら、体重はどこまでも増え続けて健康を著しく害するにちがいありません。こわいのは、本当にお腹が空いていないのに何となく食べる習慣を続けていると、先に述べた食欲中枢が麻痺して、真の空腹感や満腹感が感じられなくなってくることです。
食べることの意味は、生きるために必要なエネルギーを身体に取り入れ、またさまざまな栄養素を取り込んで代謝を行い生命を維持すること。この点を曖昧にした食事をしてはいけません。まず大事なことは、空腹感や満腹感を基準に食事をする習慣をつけることです。その次のステップとして、エネルギー代謝の観点から自分の体質を考慮した食事内容を考えましょう。
代表的なエネルギー代謝調節系遺伝子は三つ
ADRβ3遺伝子:β3アドレナリン受容体の変異は、日本人の3人に一人がもっています。ADRβ3は脂肪細胞、腸や肝臓に存在するインスリン調節にかかわるホルモンで、正常に働けば脂肪を分解しなさいという信号を送りますが、変異型はこの信号がストップして、脂肪分解や熱産生が悪くなり、基礎代謝が200kcal低くなります。体型は内臓脂肪型肥満で、インスリン抵抗性や高血圧を発症、糖質を摂りすぎるとお腹周りに脂肪がつきやすいリンゴ型肥満で、食事では糖質制限が有効です。
UCP1遺伝子:脱共役タンパク質1の変異は、日本人の十数パーセントにみられます。
UCP1は脂肪を燃焼する褐色脂肪細胞に多く存在、体内の熱産生を調整します。正常な状態では脂肪を分解するシグナルを送り、脂肪が燃焼するが、変異型では脂肪の分解能力が低く、基礎代謝が100kcalほど低くなります。体型は皮下脂肪型で、下半身に脂肪がつきやすい洋梨型肥満。脂肪の代謝が悪いので、脂質制限が必要です。
ADRβ2遺伝子:β2アドレナリン受容体は心臓、気管支平滑筋に存在、脂肪の分解にも関わります。上記二つの遺伝子と異なり、変異することで基礎代謝が増える遺伝子であり、食べても太りにくい特徴があります。変異型では基礎代謝が150kcal増えますが、タンパク質も代謝されやすく、筋肉が衰えやすく、筋力が衰えると基礎代謝が低下、このタイミングで太ると痩せにくいので注意が必要です。
糖質制限ダイエット、脂質制限ダイエット?
三大栄養素からみて、太る原因は糖質、脂質、あるいは双方の過剰摂取によります。上記の遺伝子検査の結果をもとに、内臓脂肪型の人なら、まず自身の食事において砂糖や果糖の多い甘い菓子やジュースを控え、さらに、麦芽糖・ブドウ糖・果糖が含まれるビールや日本酒、ワインなどアルコールの摂取頻度を見直してください。そのうえで、主食の白米やパン、麺類など糖質を制限します。また咀嚼を増やすために、玄米や胚芽米、全粒粉のパンなど噛み応えのある食べ物を選ぶことも大事です。
皮下脂肪が沈着しやすいタイプの人は、脂質の代謝が弱く、血液検査では中性脂肪やコレステロールが高い人が多く見られます。高脂肪の食事は血液中の遊離脂肪酸を増加、脳の摂食中枢を刺激して、ますます食欲を亢進させるので、ハンバーガーやフライドポテトなどのジャンクフードは禁物です。日常の食事では脂身の多い肉や、チーズ、バターなどに含まれる動物性脂肪は控えめにとり、一方オリーヴオイルなど良質な植物性脂肪は、サラダのドレッシングなどで積極的にとりましょう。